posted: 2020/11/11
update: 2020/11/11
2020年11月6日、中国の太原衛星発射センターで長征6号による13機の衛星打上げが行われ、世界初のヨウ素ベース衛星スラスタを搭載したBeihangkongshi-1衛星も軌道に運ばれた。
Beihangkongshi-1は12UのCubeSatで航空機自動追跡技術の実証機である。Spacety社(所在地:中国&ルクセンブルグ)が開発製造した。そのBeihangkongshi-1にフランスのスタートアップ企業ThrustMe社が開発したヨウ素ベースの電気推進スラスタNPT30-I2が搭載されている。
ThrustMe社は仏国立科学研究センター(CNRS)とエコール・ポリテクニークの共同ラボのプラズマ物理研究所で研究されていた技術を事業化するため2017年に設立された。
同社の創業者のアネスランドCEOはCNRSのインタビューに以下のように答えている(抜粋・要約)。
< これまでイオンスラスタに用いられてきたキセノンと異なりヨウ素は希少なものではない。また原価もキセノンより安い。更なる利点は固体の状態で貯蔵可能な点である。キセノンは気体であったので、タンクは高圧化し構造が複雑で、また取扱いにも繊細さが要求されている。ヨウ素ベースの場合固体で取扱いが容易であり、構造も小さくできる。>
<世界で大規模衛星システムの開発が盛んになっている今、ヨウ素ベースのスラスタは高まるスラスタの需要に応えることができるだろう。我々はこのヨウ素による新しい宇宙機の推進システム技術によって、業界の様相に変化をもたらしているところである。>
ThrustMe社はちょうど1年前の2019年11月、ヨウ素ベース推進技術実証スラスタI2T5を軌道に送っている。同じくSpacety社とのコラボで6UCubeSatのXiaoxiang 1-08に搭載された。
同社技術部長は、前回のI2T5では貯蔵、供給、純化などヨウ素ベーススラスタの主要技術の実証を行なった、今回はスラスタシステムの全ての機能を実証し、多くの軌道上マヌーバを行うと話している。
またアネスランドCEOは、同社のスラスタの商業化について、2020年9月に欧州宇宙機関(ESA)と同社初めての、ヨウ素ベーススラスタ開発契約を結んだと話している。また仏国立宇宙研究センター(CNES)からも大いに支援を受けているとも加えた。
ソース:CNRS(06/11/2020)、Usine Nouvelle(10/11/2020)、A&C(09/11/2020)、ThrustMe社のサイト
文:浜田ポレ 志津子(フラスペ)
No:N20201111-01
運営者 PROFILE
フランスの大学院で仏欧宇宙産業政策を学び、その後現地で同分野の調査研究に従事。フラスペを立ち上げ「フランス・欧州宇宙分野」をメインに情報を発信。
宇宙業界のほか航空、科学・技術・イノヴェーションに関する政策・動向の調査研究なども手がける。また在仏日系企業や日本人家庭のヘルプ業務も受託。