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解説・特集COMMENTARY / FEATURE

アリアン・ロケット開発物語

アリアン・ロケット開発物語(5)- フランスの状況:ロケット分野(1950年代後半〜60年代初頭の様子)

P20200820 Ariane1.jpg前回はイギリスで余ってしまったブルーストリークの扱いがきっかけで、ロケット事業での欧州協力に向かう道が現れてきた話をしました。英マクシミリアン首相の思惑は、実質的な経済的理由ではブルーストリークの処理、政治面では、国内ではブルーストリークを余らせた不信感の払拭、対外的には欧州経済共同体(EEC)への参加のデモンストレーションというものがありました。時代は1960年のことです。

そしてイギリスはまずフランスを「ブルー・ストリークの欧州化」という同じ舟に乗せようと考えます。その上で欧州各国に対して積極的に交渉を進めていくことにします。

これから、各国がイギリスの提案を受けた際にどのような状況で、どう反応し、どう加盟に至ったかを紹介していきたいと思います。まず、イギリスが「ブルーストリークの欧州化」という同じに舟に乗せたかったフランスについて、当時の状況と交渉過程について順次書いていきたいと思います。

軍による宇宙ロケットの取り組み:観測ロケット

陸軍は戦後液体燃料の観測ロケット「ヴェロニク・シリーズ」を開発してきました。結果的にこのシリーズはおよそ20年間運用されるものとなります。当フラスペ の「よもやまコラム」の「宇宙に行ったフランスの動物たち(2020年8月18日付)」で紹介した、ネコを乗せたロケットのヴェロニクAGIもこのヴェロニク・シリーズの1つです。

エンジンの研究開発は、パリの西75kmにあるヴェルノンという町のLRBA(弾道技術・航空研究所)で行われていました。この町は現在でもフランスの液体推進エンジンの開発の中心であり、フランスに出張に来られた方はミーティングや視察で訪問されたことがあると思います。アリアン・ロケットのヴァルカン・エンジン、ヴィンチ・エンジン、などを作っている町です。

P20200825 Vernon.jpg
軍による宇宙ロケットの取り組み:衛星打上げロケットへの挑戦

観測ロケットを用いた高層圏の研究が続けられる一方、空軍のDTIA(航空産業技術局)では戦略弾道ミサイル技術の研究に取り組んできました。そして、1959年、国防省が出資するSEREB(弾道ミサイル研究製造会社)が設立されます。

そしてSEREBでは固体、液体も含めて、弾道技術を実証するための研究開発が行われていたのですが、ここで「衛星打上げロケットの開発」という企画が持ち上がります。エンジンと機体を含む1段ごとに、トパーズ、サファイアなど宝石の名前がつけられ、それらを組み合わせたり機能アップさせたりしながら開発していくプログラムで「宝石シリーズ」と呼ばれました。

02-1 Precious Stones.jpg

その衛星打上げロケット開発プログラムに、ヴェルノンのLRBAの液体推進技術も構成要素として検討されます。このプログラムからやがてフランスの人工衛星打上げ用ロケット「ディアマン」が産まれました。上の図表の一番右のダイアモンド・ロケットです(ダイアモンドは仏語で「ディアマン」)。このディアマン・ロケットは1965年11月にアステリクス-A1衛星を軌道に載せることに成功します。

さて、イギリスがフランスにブルー・ストリークを用いた欧州のロケット開発の話を持ちかけてきたのは、ちょうどこの軍による「衛星打上げロケットの開発」が考えられ始めた時でした。自国のプログラムを進めようとする中、イギリスからも提案がきた、という状態です。フランスはどう対処するでしょうか。次回は、その前に少しだけその頃のフランスの宇宙科学分野の状況を紹介しておきます。


次回につづく

文:浜田ポレ 志津子(フラスペ)

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