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解説・特集COMMENTARY / FEATURE

アリアン・ロケット開発物語

アリアン・ロケット開発物語(1)液体推進はロケット分野に(1950年代後半〜60年代初頭の様子)

P20200820 Ariane1.jpgこれから新しいシリーズ「アリアン・ロケット開発物語」をアップしていきます。

(シリーズの合間に他の話題の記事も入りますが、ページの右側のリストで「カテゴリ」の中の「アリアン・ロケット開発物語」をクリックしていただければこのシリーズの記事の目次だけが出てきます。)


現在欧州では大型ロケットのアリアン5、ロシア技術を持ち込んだ中型のソユーズ、イタリアが主導する小型ロケットのヴェガで構成されるいわゆる「アリアン・ロケット・ファミリー」を運用しています。

そして、来年にはアリアン5の後継機となるアリアン6、ヴェガの改良版ヴェガCが登場する予定です。(コロナ・ウィルスをはじめ何らかの事情に起因して業界、社会状況は刻々と変化するため、スケジュールの変更もあり得ます)。

このシリーズでは、そんなアリアン・ロケット・ファミリーがどのように生まれていったのか、欧州宇宙業界の歴史を交えながら紹介していきます。

コンテンツは、筆者が2010年から2011年にかけて「宇宙開発を考える宇宙政策シンクタンク-宙の会(そらのかい)」のサイトに寄稿したものをベースに、それに加筆、再編集を入れて進めていきます。宙の会のサイトは現在(2020年8月15日)、ウェブ・アーカイブで参照できるようです。

物語は欧州が「協力してロケット開発に取り組むことになる前の、1950年代後半から60年代初頭の様子から始めていきます。

アリアン・ロケット開発物語(1) - 液体推進はロケット分野に(1950年代後半〜60年代初頭の様子)

1950年代後半、欧州主要諸国では軍を中心にミサイル技術の研究開発が行われていました。目指すのは「より大きなもの」を、「より遠くへ」、「より正確に」、「より素早く」、発射することでした。そして固体燃料、液体燃料の双方の推進方式で複数のミサイル技術が開発されていきました。

しかし、どうも液体燃料を用いるミサイルは「より素早く」という条件にうまく合致しません。液体酸素を酸化剤に使う液体燃料は保管、運搬に手間がかかり、どうも素早い発射に向いていないのです。こうして液体推進方式のミサイルは次第に配備から外れていくこととなりました。

そして液体推進方式は、ミサイルと同じ原理を利用して発射・推進する仕組みの「ロケット」という飛翔体への利用に移っていきました。ロケットの場合、ミサイルの発射ほど瞬時の打上げに対応する必要はなかったからです。ミサイルとロケット、両方とも基本は同じ所から出発しているけれど、それぞれ優先するもの、要求するものが違っていました。

またその違いの一例として、依然として軍がミサイルやロケットの開発製造を指揮する中、1962年、それまで軍の仕事をしたことがなかったエール・リキッド社(起源はフランス、日本の会社はエアー・リキード社と表記)が、ロケット開発部門に参加することになったことも挙げられます。同社の極低温技術の専門力を提供するためでした。

次回につづく

文:浜田ポレ 志津子(フラスペ)

No:D2000820-01