英宇宙政策
wrote: 2019/07/23
update: 2019/07/24
2019年6月4日、英国宇宙機関(UKSA)は宇宙分野に関して新たな2つの予算投資を発表した。それぞれ宇宙気象予測、宇宙輸送系に関するものであった。
6月4日の発表の宇宙気象予測分野の話は、アメリカと協力して宇宙気象予測を強化するために、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の科学者らによる新しい機器「プラズマ・アナライザー」の開発に900万ポンドの予算を与えるというのものであった。
もう1つの宇宙輸送分野の話は、イギリスが取り組んでいる「LaunchUK」プログラムに関するもの。LaunchUKとは英政府の産業戦略の1つで、小型衛星打上げとサブ・オービタル飛行が可能な宇宙飛行用の飛行場をイギリス国内に建設し、運用しようというものである。どうもうまい言葉が見つからず「宇宙飛行用の飛行場」と書いたが、呼び方は宇宙飛行用の港、射場、打上げセンターでもなんでも良い。ここでは以後本人たちが使っている「スペース・ポート」としよう。
LaunchUKの目的は、平たくいえばこれから需要がますます高まると見られる小型衛星打上げやサブ・オービタル飛行市場で稼ごうというものだ。彼らの試算では小型衛星打上げはこれから10年でイギリス経済に約40億ポンドをもたらす可能性があると見込まれており、そのため英政府はLaunchUKのスタート費用にと5000万ポンドの予算を割り当てている。確かに5000万ポンドが40億ポンドになるなら、例えその5000万ポンドが初期費用であり、今後の出費があったとしても悪い話ではないかもしれない。
ただ、LaunchUKは小型衛星打上げ市場への参入とそこでの成長といった直接的な目的を持った独立したプログラムというだけでなく、それにより特に小型衛星製造が得意なイギリスの国内メーカーでの生産・販売拡大、さらにそこからつながる衛星サービス産業、その衛星サービスを可能にする機器を開発・生産・販売する産業の成長をも鑑みている。
つまりイギリスでの宇宙産業エコシステムを確立していこうというものである。この総合的な狙いはイギリス政府が目下打ち出している「2030年までに世界の宇宙関連市場で10%のシェアを獲得する」という産業戦略に合致しており、LaunchUKはその戦略実行の中の1つの大きな柱となっている具合である。
LaunchUKプログラムに関する具体的な内容は、UKSAとスペース・ポート・コーンウォールの地元となるコーンウォール議会がそれぞれ785万ポンド、1200万ポンドの予算を割り当てるというものである。また地元産業などからも50万ポンドが拠出され、合計すれば2000万ポンドの投資となる。予算の割当先はコーンウォール・スペースポートとヴァージン・オービット社である。ただし予算投与確定は、今年中に行われる事業計画の承認を待つことになっている。
コーンウォール・スペースポートはLaunchUK で、水平方向離陸の宇宙飛行機体の打上げ用のスペース・ポートとして選ばれている。実現すれば150人の雇用を生むとされている。一方垂直離陸の宇宙機用の打上げ用のスペース・ポートにはスコットランドのサザランド地方が選ばれている。
ソース:UKSA(04/06/2019)、英政府(15/06/2018)、他
文:浜田ポレ 志津子(フラスペ)
No:D20190723-01
運営者 PROFILE
フランスの大学院で仏欧宇宙産業政策を学び、その後現地で同分野の調査研究に従事。フラスペを立ち上げ「フランス・欧州宇宙分野」をメインに情報を発信。
宇宙業界のほか航空、科学・技術・イノヴェーションに関する政策・動向の調査研究なども手がける。また在仏日系企業や日本人家庭のヘルプ業務も受託。