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解説・特集COMMENTARY / FEATURE

特集1

フランス、欧州の宇宙分野の特徴・興味深い点(8)やめられないオートノミーへの努力、代表例2 ロケット、の続き

P190323 Ariane family.jpg前回はロケット分野のオートノミーがないとどうなるかと、欧州がアリアン・プログラムに進んでいった頃に苦汁を嘗めたシンフォニー事件のことを中心に書きました。今回はその続きです。

その後欧州は1973年にアリアン・プログラムを正式に始動させ、アリアンロケット・ファミリーの第1号機となるアリアン1は1979 年に打ち上げられました。
それ以降欧州はアリアン1〜3、アリアン4、と使い続け、現在はアリアン5が大型ロケットとして運用されています。また、ロシアが開発・運用してきたソユーズロケットを欧州が主要ロケット射場として使っているギアナ宇宙センター(CSG)に持ってきて、中型ロケットとして運用したり、イタリア主導のヴェガロケット・プログラムも並行して進めたりしています。


そして現在欧州はアリアン5の後継機であるアリアン6(運用開始2020-2021年予定)と、ヴェガの改良版であるヴェガCロケット(運用開始2020年予定)を準備しています。2014年12月の欧州宇宙機関(ESA)閣僚級会議で正式スタートが承認されました。

この2つのプログラムにはこれまでと異なる大きな変化が見られています。これらが技術志向でなく徹底的なコスト削減による低価格化を狙ったプログラムだということです。それが表れている顕著な点が以下となります。


・アリアン6はアリアン62(固体ブースタ2本)とアリアン64(同4本)を想定し、ミッションによってブースタの数を増やしたり減らしたりするモジュール式で対応する
・その固体ブースタもヴェガCの第1段とほぼ兼用となる仕様で生産を合理化する
・販売価格はアリアン5の半額か40%引き
・事業責任、体制の大変換

最後の「事業責任・体制の大変換」という部分ですが、これは欧州宇宙産業にかなり大きな変化を与えました。これまで国・欧州機関が負っていた事業責任は今後民間のアリアングループ社が負うことになりました。サプライチェーンの管理や生産拠点の集約などの裁量はアリアングループが自分たちで決められることになり、より企業側が見積もる形でのコスト効率の良い生産・販売を行うことができるようになりました。一方で企業側は事業リスクも負うことになります。またこれまで政府機関である仏国立宇宙研究センター(CNES)が保有していたアリアンロケットの打上げオペレータであるアリアンスペース社の株もアリアングループに移されました。


ではなぜ欧州はこのような「技術志向より販売価格重視」、「事業責任・体制の大変換」という選択をしたのでしょうか。それには欧州が戦うロケット打上げ市場の競争のさらなる激化の展望が挙げられます。これまでのアリアンロケットやアリアンスペース社の強みは「信頼性」や「ちゃんとしたサービス」でした。しかし、今はスペースX社をはじめニュースペース企業や新興国の打上げ市場への参入・台頭はとても無視することはできません。彼らはより低価格で打上げサービスを提供してきます。

その中でやっていくにはやはり価格の問題はクリティカルです。顧客は彼らの価格の安いサービスを選んでいくでしょう。やはりアリアンも価格競争力を強化しなければなりません。更にアリアン・ブランドの売りである「信頼性」を捨てるわけにはいきませんので、「アリアン6は次世代を担うロケット」といっても、「次世代的革新技術」をたくさん盛り込むような冒険はせず、既存の技術を、しかし現在の最新のコントロール技術を用いて開発・製造・運用していく形を選ぶことになりました。

このように、欧州は激しい競争が繰り広げられるロケット打上げ市場でも、自分たちが自由に使える自分たちのロケットが無くならないよう努力を続けている、といった具合です。

文:浜田ポレ 志津子(フラスペ)

No:D20190814-2