宇宙
posted: 2019/04/09
update: 2019/06/25
NASAや欧州宇宙機関(ESA)、ドイツ航空宇宙センター(DLR)、イタリア宇宙機関(ASI)など、多くの宇宙機関のトップの役職は日本語で「長官」と訳されている。英語ではNASAはアドミニストレーター、ESAはディレクター・ジェネラル、DLRはチェア・オブ・ザ・DLRエグゼクティブ・ボード、まあ役員会議長といった感じか。そしてASIはプレジデント、とそれぞれ異なっているが日本語ではどれも「長官」と訳されている。
けれど仏国立宇宙研究センター(CNES)の場合、フランス語での表記は日本風に発音すれば「プレジデント」であるが日本語訳は「総裁」だ。これ、他愛のないことで業界の争点とは全く関係ないのだが、この研究を始めた20年ほど前「なんでかな〜」「どうして他の機関と違うのかな〜」と感じたことがあった。
で、少し調べてみると答えは簡単なことだった。要するにそれは過去にCNESには、例えばESAでトップのために使われている「ディレクター・ジェネラル」という役職が存在していたからであった。CNESでは長官と呼ばれる「ディレクター・ジェネラル」の上に最高職の総裁と呼ばれるプレジデントがあったため、最高職は「総裁」とするようになったというわけだ。このCNESにおける長官職はある時期から空席となり、現在はディレクター・ジェネラル・デレゲという副長官、または代表本部長ともいえる、各本部・本部長のまとめ役で総裁との間をつなぐ役職がある状態となっている。
さて、宇宙機関のトップについて。いやぁ、やっぱり人間だからいろいろ個性が出るんだなぁと感じたこともある。以前同僚のフランス人が当時のCNESのデスカタ総裁(在任:2003-2013)とESAのドーダン長官(2003-2015)について、演説の組み立ても使う言葉もすごく違うと話してくれた。デスカタ総裁は仏原子力庁やガス・電気のEDF(仏全国版東京電力といった感じか)でのキャリアも長く、そのためか話の進め方は戦略的に洗練されており、使う言葉も専門的な演説だっという。一方、宇宙飛行士を目指したこともある情熱系のドーダン長官の方は素朴な言葉で説明も率直だったとのこと。なるほど、確かに同じ宇宙分野のトップといえどもこういう違いはあるものだ。
(ドーダン長官を「情熱系」と書いたが、それだからといって彼をあなどってはいけない。ドーダン長官は長年にわたり海千山千が要求をぶつけ合う欧州宇宙業界をまとめてきた人物である。)
そういえば、現ESA長官のヴァーナー氏は時折ESAのサイトで長官ブログを更新している。彼が以前DLR長官だった頃もたびたび長官ブログを更新していた。けれど現DLR長官のエーレンフロイント氏はそうでもない。どちらが望ましいとか正しいなど言っているわけではない。逆にこれからもいろんなタイプのリーダーを見ていきたいと思う限りである。だって、いろんな人がいると面白いもの。
文:浜田ポレ 志津子(フラスペ)
No:Y20190409-01
運営者 PROFILE
フランスの大学院で仏欧宇宙産業政策を学び、その後現地で同分野の調査研究に従事。フラスペを立ち上げ「フランス・欧州宇宙分野」をメインに情報を発信。
宇宙業界のほか航空、科学・技術・イノヴェーションに関する政策・動向の調査研究なども手がける。また在仏日系企業や日本人家庭のヘルプ業務も受託。