航空・科学技術
posted: 2019/05/09
update: 2019/05/10
長めの論文を書く際、フランス語でフランス学界向けのものを作る時と英語で国際学会のために用意する時とでどうもプロットが違うな、と感じたことがあった。
論文を指南する人の好みもあっただろうが、例えば航空宇宙分野であればフランス用に書く場合「大空に対する憧れやあがなえない上昇への衝動」などをイントロダクションに入れてから論述を始めるよう指導された。けれど英語の場合は直に論述から始まる。繰り返すが、指導者個人の好みもあったろう。
そして、フランス用でよく例に持ち出されたのがギリシャ神話のイカロスの話。鳥の羽と蝋で作った翼を使い飛行したが太陽に近づき過ぎて蝋が溶けて落っこちたというイカロス。歌にもなっている話だ。フランスの指導者からは「宇宙分野というならこのイカロスの高く飛ぶことへの欲望、人間の逆らえないサガのくだりを入れましょう」など言われた。
しかし、実は私はイカロスの話を詳しく知らなかった。まさに「太陽に近づき過ぎて蝋が溶けて落っこちた」程度であった。そこでどんな話かと調べてみると。。。なるほど調べてみた甲斐があった。イカロスのお父さんのスーパーエンジニア加減に感動してしまったのだった。
話はざっとこんな感じだ。イカロスの父親のダイダロスはクレタ島のミノス王お抱えの大工であり職人であり発明家であった。常に王や王妃の要望に応え様々なものを作り出している。その中でも彼自身の運命の鍵となったのは迷宮建設であろう。ダイダロスはミノス王の命令で暴れん坊のミノタウルスを閉じ込めるための迷宮を作った。迷宮は完成し、そこに閉じ込められたミノタウルスには食料として生け贄を与えていく形になった。
しかし何の因果かミノス王の娘つまり王女のアリアドネが生け贄の1人であったテセウスを好きになってしまった。そこでアリアドネは生け贄として迷宮に入るテセウスに短剣と鞠を渡す。ミノタウルスを倒すための短剣と、脱出不能と言われた迷宮から外へ出るための鞠である。そう、これはまさにこれはダイダロスの入れ知恵であった。そして見事テセウスはミノタウルスをやっつけ、鞠から垂らされていた糸をたどって迷宮を脱出した。いわゆる「アリアドネの糸」のお話である。そしてテセウスは王女アリアドネとともにクレタ島からおさらば。いわゆる駆け落ちだ。
可愛い娘に駆け落ちされ怒り心頭のミノス王、その駆け落ちに手を貸したダイダロスを許すはずがない。王の怒りをかったダイダロスは息子のイカロスとともに迷宮に幽閉されてしまう。自分の作った迷宮に閉じ込められることになったのである。さて天下の名工ダイダロス、それからどうする?
神話のイカロス:父親ダイダロスはスーパーエンジニア(2)に続く
文:浜田ポレ 志津子(フラスペ)
No:Y20190510-01
運営者 PROFILE
フランスの大学院で仏欧宇宙産業政策を学び、その後現地で同分野の調査研究に従事。フラスペを立ち上げ「フランス・欧州宇宙分野」をメインに情報を発信。
宇宙業界のほか航空、科学・技術・イノヴェーションに関する政策・動向の調査研究なども手がける。また在仏日系企業や日本人家庭のヘルプ業務も受託。